はてなダイアラー絵本百選

ぶたのたね

木村健悟に捧ぐ。


「ぶたのたね」作/絵 佐々木マキ*1ASIN:4871101126

はしるのが とても おそい おおかみがいた。
どんなにおそいかというと、ぶたよりもおそい。

角川映画華やかし頃の作品「白昼の死角」は「狼は生きろ 豚は死ね」というキャッチコピーでCMを打っていて
当時小学生だったわたくしは「なんつうひどいことをお言いだ」と思ったものです。
狼にだって弱いのもいます。
タッグマッチ時の木村健悟みたいな弱い弱い狼。
この絵本に出てくる「おおかみ」は足が遅く「ぶた」を捕まえて食べることが出来ず
「これまで、やさいと木の実しかたべたことがなかった」というたいそう情けない狼です。
豚たちはそんな彼をバカにします。「ここまでおいで、あっかんべー」と。
狼はすすり泣きます。
「豚を捕らえ丸焼きにして腹一杯食べてやりたい」と。
そして唐突に現れる長州力。「お前は噛みつかないのか?」
間違えた。
唐突に現る「きつねはかせ」。
狐の博士は狼を研究室に招き、ピンク色の粒を渡します。
それが「ぶたのたね」。
この種を蒔き、これまた博士が開発したという成長促進薬を毎日ふりかけると
種はたちまち大木となりそこに豚がたわわに実ると告げます。
半信半疑の狼。豚が木に生るなんて。
弱く真面目な狼は毎日コツコツと薬を蒔きました。
あっというまに大木になる種。
そしてある日ついに豚が生るのです。木に。たわわに。

つぎのあさ、おおかみが ぶたの木を見にいくと、
たくさんの ぶたが えだから ぶらさがっていた。

続きは是非絵本を見ていただくとして
とにかくこの弱い狼の情けなさには胸を打たれます。
この絵本では、狼は結局豚を食べることができません。
やられ損努力損なのです。
ほんとうに、まるで、「タッチしてくでー」と藤波辰巳に手を伸ばす木村健悟のようです。
おいしい思いなんてちっともできないのです。
最後のページで狼は「こんどこそ」とまた種を埋め、薬を蒔きます。
でもたぶん、この狼が豚を食べる時は来ないでしょう。
光り輝くこともなくリングを降り、解説席に座ったものの
「何喋ってるかわかんないよ」と引退してまで皆にバカにされ続ける木村健悟のように。
こんなおおかみがいたっていいじゃない。人生頑張ってんだよ。

ぶたのたね

ぶたのたね

*1:1946年神戸生まれ。68年ガロでデビュー。マンガ家・イラストレーター・絵本作家として活躍。(村上春樹の初期のカバ−装画で有名)京都市在住。