散歩

散歩

昼間はアスファルトが灼けて相当肉球にダメージを食らうでしょうから
ブルーノの散歩は早朝か夜9時を過ぎてからです。
家を出るともう火のついたロケット花火のようになってしまい
鍵を掛けるのも待ちきれないほどです。
リードを握る手がギリギリと絞まります。
500メートルほど歩くと川があります。
川と言ってもたぶん田んぼに引水するのに必要な用水とかそういうものです。
フェンスに囲われていますがちびっこがよく魚釣りをしています。
鯉と雷魚がいるそうです。
でもちびっこに釣られるのはザリガニばかりのようです。
川沿いには桜が植えられ春にはすばらしい眺めになります。
が、この桜並木は「首吊り桜通り」と村のみんなに呼ばれているそうです。
わたしは最近知りました。
ここらをランニングしているとき教えてもらい、以来走りに行っておりません。
そんなゲンの悪い並木ですがブルーノと歩いていると別に怖くないのが不思議です。
桜並木から細い路地に入り、そこから交差点を渡ると「せんい団地」という一帯に出ます。
「せんい団地」は地名です。
綿織物で作られた集合団地ではなく、紡績繊維関係の企業が集まっている、この村のオフィス街です。
昭和の時代、ここらへんは大変景気が良かったそうです。
しかし平成の今、繊維関係は中国の工場に尻の毛まで抜かれ
何件かは空いた建物になっていたりします。
夜9時を過ぎれば残業もないのであたりは真っ暗です。
でもここには程良く広い立派な公園があります。
多分ここらの企業一帯が華やかかりし頃投資しあって作られたと思われるこの公園
小川や噴水(今は止まっています)や作りつけのベンチ、
昭和風な時計や照明灯、よく手入れされた木々や花々。
そして人口わずかふたりの国ができています。
(ルンペンをブランキー調で表現してみました)
暑い季節、ルンペンにも短鼻類の犬にも厳しい季節です。
手入れが行き届いている公園なのにルンペンの居住を許してしまう
「まだまだ、俺たちの繊維は日本一いや世界一だ!」という強気な縦糸と
「もうだめだよ中国の人海戦術とコストの安さには敵わないよ」という弱気な横糸が機織られて一枚の反物になっているかのようです。
そして、多分「首吊り桜」はこの繊維企業のアレがアレしてるんではないかといういやな考えが毎度浮かんでは消える、そんな素敵な公園です。
公園をぐるりと一周して来た道を戻ります。
帰り道は行きの勢いはなく舌出しっぱなしのへとへとなブルーノ
何度も「こっちでいいすか」と振り返ります。
その振り返る顔がわたしはとても好きなので眠くてもしんどくても散歩が楽しいのです。
なにもない村ですが、奴と一緒だととても楽しいのです。